pesceco ロゴマーク

 

長崎県島原市のレストラン「pesceco」のロゴマークをリニューアルしました。
ペシコは僕自身、大切な時間を過ごしたい時に何度も通ってきたレストランです。シェフの井上さんは地元島原のご出身。「この土地に生まれ、育まれた自分だからできる」料理の在り方を模索しながら実践しておられます。

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料理を提供するとはどういった営みなのでしょうか。
オートメーション化されたファストフードが全世界どこでも安く食べられる時代です。ファストフードだけでなく、その波は今後ますます広がっていく気がしています。一方で、大都会の真ん中で世界中から高級食材を集め、最高の一皿を作り上げるという表現の方法もあるでしょう。いずれにせよ、食のグローバル化が整っていけばいくほど、土地の香りが感じられなくなるのは悲しいことのように思います。

その流れと逆行するように、自分が生まれ育った土地で、その土地に根ざした食材と人に寄り添った料理を「ここ」で提供すること。激動の料理界の中で井上さんが突き進んでいく先は一見シンプルなように見えて、ものすごく難しいことだと感じます。でも、本当の意味で「料理する」ことにここまで真摯な方がいることに、いつも勇気をもらいます。

そんな井上さんの料理を普段から味わってきたわけですが、
ロゴマークのリニューアルをご依頼いただいた時にはじめに頭に浮かんだ人、それは約100年前、もしかしたら井上さんと同じように時代を突き進んだかもしれない、エリック・ギルでした。
ギルはグラフィックデザイナーなら「文字の先生」のような存在でよく知られています。彫刻家であり厳格なカトリックであったギルが生きた約100年前のイギリスは、産業革命による経済的恩恵の影で、職人たちがその職を奪われ「仕事を営む人間」の尊厳が脅かされるという、その影の部分がピークに達している時期でした。人が産業主義に迎合して奴隷化することを否定し続けたギルが活字書体(機械により複製される文字)を設計したことは意外なようですが、「機械製品がどうであれ、人間を中心に据えた(時として不恰好に見える)タイポグラフィこそが、活字において人間が唯一救われる道かもしれない」という思いから、ある時期から積極的に活字書体の設計を進めたといいます。オートメーション化されつつあった印刷物の質が下がり続けていた時代にあって、ギルは人間に「本当の文字」を取り戻したかったのかもしれません。

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前振りが長くなってしまいましたが、そんなギルの「ほんとうのもの」を探求しながら突き進んでいくエネルギーを井上さんのそれと重ね、ギルの設計した書体に託してロゴをデザイン。ロゴのリニューアルはペシコの移転オープンに伴うものですが、井上さんの突き詰めている料理の世界観や建築の雰囲気に合わせ、ミニマルな構成に。
今後pescecoのグラフィック周り全般に関わらせていただきます。そちらのほうは、別途アップします。